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第276話 

翌日。

別荘内に突如として轟音が響き渡った。

「兄さん、助けて!早く!」

遠藤西也はまだ夢の中だった。

彼は今、松本若子との結婚式の夢を見ていたのだ。

彼女が純白のドレスに身を包み、まるで女神のように美しく気高く、幸せそうな笑顔を浮かべながらゆっくりと自分の方へ歩み寄ってくる。

彼は胸が高鳴り、手を伸ばし彼女を迎え入れる。

二人はステージに立ち、周囲の注目を浴びながら指輪を交換する。

司会者が「新郎は新婦にキスしてよい」と告げたその瞬間、彼は彼女の顔を両手で包み、優美な顔に見惚れながらそっと目を閉じて唇を近づけていった。

その唇まであとほんの数ミリというところで、鋭い女性の声が夢を破り、彼を現実へと引き戻した。

遠藤西也は怒りを抑えきれなかった。

彼は普段から決して気の長い方ではない。

ただし、彼の優しさは若子に対してだけだ!

しかし、今聞こえた声は明らかに松本若子のものではなかった。

「兄さん、助けて!」

ドンドンドン!

遠藤花が扉を何度かノックした後、直接ドアノブをひねって中へと飛び込んできた。

「兄さん、うっかりしてお父さんのアンティークの花瓶を割っちゃったの!あれは彼の一番のお気に入りで、もし知られたら目ん玉くり抜かれるわ!お願い、助けて!」

彼女は一気に遠藤西也の布団を引きはがした。彼は下着だけを身に着けており、上半身は裸、引き締まった腹筋が際立っている。

遠藤花は呆然とし、目を奪われてしまった。

もし彼が自分の兄でなかったら、とっくに手を出していたかもしれない。

遠藤西也はゆっくりと目を開け、彼女を陰険な目つきで睨みつけ、だるそうにベッドから起き上がった。

「遠藤花、お前、俺が今何をしたいと思ってるか分かってるか?」

「優しいお兄ちゃんが愛しい妹を助けてくれるってことでしょ!」遠藤花はベッドの端に座って彼の腕を握りしめ、「わあ、兄さん、筋肉すごいね!」

彼女はその筋肉をポンポンと叩いた。

遠藤西也は冷たく彼女の図々しい態度を睨みつけた。

思い出したように彼女は、「お願い、一緒の花瓶を探してきて!これと同じやつよ」

と携帯を取り出して写真を見せた。「一緒のを見つけて!お願い!」

遠藤西也は写真を一瞥して、唇を少しだけ歪めた。「無理だ。こんな花瓶は一つしかない。見つかるわけないだろう。おまけに、自分の失
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